世界的な観光都市、京都を走る京都市営地下鉄は、2022年現在、日本一運賃が高い地下鉄と言われています。
しかし、京都市営地下鉄を運営する京都市交通局はさらなる値上げを検討しているようです。
具体的には、現在初乗り220円の運賃を30円ほど値上げして250円ほどにしようとしています。
参考までに他の都市を走る地下鉄の初乗りを見てみると、大阪メトロは180円、東京メトロは170円、神戸市営地下鉄と横浜市営地下鉄は210円となっているので、値上げが実現すると、飛び抜けて高い運賃になることが分かります。
日本の古都であり、政令指定都市で人口も多いはずの京都の地下鉄でどうして値上げが必要なのでしょうか。
普通、利用客が多いエリアを走っていれば、鉄道の料金は安くなります。
その証拠に、全国に路線があるJRでも、大都市の方が割安で乗車できる料金設定になっています。
しかし、京都市営地下鉄は、140万人以上の市民と京都を訪れる観光客に支えられているにも関わらず、 市民もこれには悲鳴をあげており、「既に日本一高いんだから値下げをしてほしいぐらい」という人もいます。
ということで、今回は「京都市営地下鉄がなぜ値上げを検討しているの」解説していきます。
値上げしなければいけない理由① 地下鉄の建設費が高すぎた
日本一高い地下鉄「京都市営地下鉄」が値上げをしなければいけない最大の理由は地下鉄の建設費が高すぎたことです。
京都市営地下鉄には、烏丸線(からすません)と東西線(とうざいせん)という2本の路線が走っているのですが、その中でも東西線の建設コストが他の地下鉄と比べるとあり得ないぐらい高額でした。
一般的に地下鉄の建設コストは1kmあたり150億円〜300億円と言われています。
京都市営地下鉄東西線の路線距離は約17kmなので、この計算でいくと、2550億円〜5100億円あれば建設できるはずでした。
実際に計画段階では2450億円だったので、平均よりも安く建設ができる予定でした。
しかし、完成してみると、倍以上の5500億円以上の費用がかかってしまったようです。
どうして、予定よりも倍以上の建設費がかかってしまったのでしょうか。
理由は2つあり、1つ目は工事期間がバブル期に重なったことです。
京都市営地下鉄東西線の建設が行われた頃は、まさにバブル時代で建設費用も高騰していました。
しかし、計画にはバブル時代による建設費の高騰などは、計算に入っておらず、結果的に予算を大幅に超える費用がかかってしまいました。
そして、2つ目の理由は、京都という土地柄、埋蔵文化財(まいぞうぶんかざい)が多く埋まっており、地下鉄建設前に発掘調査が必要だったからです。
「発掘調査が必要なことは計画段階でわかっていたんじゃないの?」そう思った人も多いと思います。
確かに、事前に発掘調査が必要なことはわかっていましたし、そこは予算に組み込まれていたと思いますが、想定以上に時間がかかってしまったようです。
時間がかかるということは、それだけ人件費や調査費用も必要になるので、建設コストが増えていきます。
そもそもの試算が甘かったと言えば、それまでなのですが、京都には、想像以上に価値ある埋蔵文化財が埋まっていたということです。
おそらく、まだ発見されていない文化財もたくさん埋まっていると思います。
バブル時代に建設してしまった事、想像以上に埋蔵文化財が多すぎたことが原因で京都市営地下鉄東西線の建設コストが高くなってしまい、今もこの建設費用を返済しています。
値上げしなければいけない理由② 想像以上に東西線の利用者が少なかった
日本一高い地下鉄「京都市営地下鉄」が値上げをしなければいけない2つ目の理由は、高い建設コストをかけたにも関わらず、想定以上に東西線の利用者が少なかったことです。
計画当初は、東西線全線の1日の利用者数を18万4000人と想定していましたが、いまだにこの想定人数を超えたことがありません。
このような状況から、2008年に日本の地下鉄事業者で初となる経営健全化団体に指定されました。
「経営健全化団体って何?分かりやすく教えて!」という人のために、簡単に説明します。
経営健全化団体とは、大きな赤字を抱えた地方公営企業のことで、民間企業で言うと、倒産に近い状態を指します。
具体的な基準としては、すべての収入を合わせた金額を100%とした場合、経費が120%を超えた時点で経営健全化団体に指定されます。
つまり、100円を稼ぐために119円の経費までならギリギリセーフですが、120円の経費がかかってしまうとアウトということです。
経営健全化団体に指定されると、総務省の管理下に置かれ、職員の給与カットや経費の大幅削減など、健全な経営状態になるまで厳しい改善を強要されます。
京都市営地下鉄では、厳しい改善を乗り越えて、2015年に開業以来初めての黒字を達成、2017年には経営健全化団体を脱却しました。
それ以降は、外国人の観光客も増え、順調な経営を続けてきたのですが、ある出来事で一気に経営危機となってしまいます。
値上げしなければいけない理由③ 感染症が世界を襲った
先ほど、ある出来事で一気に経営危機になってしまったと言いましたが、そのある出来事とは、新型コロナウイルスです。
この数年、京都市営地下鉄は順調の経営を続けていましたが、それは外国人観光客の増加によるもので、観光客が全くいなくなってしまった2020年・2021年は厳しい状態に戻ってしまいました。
「でも、それはどこの鉄道会社も同じじゃないの?」と思うかもしれませんが、値上げしなければいけない理由①でも説明したように京都市営地下鉄には、東西線の建設費を返済という重い借金を背負っています。
他社も建設費を返済しなければいけないという状況は同じですが、京都市営地下鉄ほど重たい借金でもありません。
この数年はずっと黒字だったので、ある程度の内部留保はあったと思いますが、それも微々たるもので、とても収入が減った分をカバーできる金額ではありませんでした。
感染症については、少しずつ落ち着きを取り戻し、京都に観光客は戻ってきていますが、それでも2019年以前のような賑わいはなく、外国人観光客が戻ってくるのも、いつになるかわかりません。
観光客がこれまでのように戻ってくれば、黒字に戻るかもしれませんが、その間も借金の返済をしなければいけないことを考えると、再度、経営健全化団体に指定されるのは時間の問題と言われています。
以上が値上げしなければいけない理由です。
まとめると、
①地下鉄の建設コストが高すぎた
②想定以上に東西線の利用者が少なかった
③観光客の利用者が減った
という3つの理由が重なり京都市営地下鉄は、値上げを検討しなければいけない状況になりました。
値上げをすることで若干の改善は見込まれますが、それでも完全な黒字に戻すのは難しいと思います。
しかし、京都市営地下鉄は、民間企業ではありません。
「潰れそうになったら京都市が助けてくれるだろう」と考えている人も多いと思います。
実際に京都市民もそう思っている人が少なくありませんが、実は京都市も大ピンチを迎えています。
京都市は助けてくれないのか?
実は、京都市も財政難の危機が迫っています。
具体的には、市の借金とも言える市債の残高が1兆3000億円を超えています。
このままの状態が続くと、以前、財政破綻した北海道夕張市と同じ道を辿ることになると言われています。
「政令指定都市が財政破綻なんて有り得ない」と思うかもしれませんが、早ければ2028年には財政破綻すると言われている程、危機が迫っています。
どうして、京都市が財政破綻の危機にあるのでしょうか。
その理由の1つは、先ほども説明した東西線の建設費なのですが、それ以外にも京都市の税収入が少なすぎるという問題があります。
普通、人口が多ければ住民税がそれだけ増えるので、税収が増えるのですが、京都市は他の政令指定都市に比べて住民税の収入が少ない状態です。
理由は、京都市内にたくさんの大学があることに関係しています。
「大学と住民税の何が関係あるの?」と思った人も多いと思いますが、大学生は住民税が免除される収入しか稼がない場合がほとんどなので、大学生が多ければ多いほど、住民税が減るということにつながります。
仕方のないことではありますが、京都市としては、学生の割合を減らして住民税をしっかり払ってくれるサラリーマンを増やしたいと考えていると思います。
他にも、京都市は固定資産税の税収も少ない状況です。
これは、古都の景観を守るために高層ビルの建築を制限しているからです。
高いビルになればなるほど、資産価値が高くなり、固定資産税も高くなるので、景観を守りたい反面、高層ビルの規制をなくしたいと考えていると思います。
さらに、寺院やお寺など宗教法人は、宗教活動に関するものは非課税となるため、ほとんど税金が取れません。
これらのことから、京都市は人口は多いのに、税収は少ない状況が続いており、このままでは財政破綻してしまいます。
このような状況の京都市に、京都市営地下鉄が助けを求めても、助けられるはずがありません。
なので、京都市営地下鉄は、自力で復活しようと値上げを検討しているのです。
値上げは早ければ2023年には行われるそうです。
さらに、京都市営地下鉄と同時に京都市営バスの料金も値上げされると考えられます。
京都市民からしてみれば、日々の支出が大きく増えるので、もしかすると何かしらの割引制度が用意されるかもしれませんが、今の京都市・京都市交通局の状況を見る限り、そのような余裕はなさそうなので割引制度実施の可能性は低いと思います。