なぜ、貨物列車はトラックに負けてしまったのか?

いきなりですが、日本国内の物流輸送方法として一番割合の高いのは何だと思いますか?

「トラックが一番多そうだけど貨物列車も多そう」と思った人も多いと思いますが、国土交通省の調査しているデータによると、自動車が5割、船が4割で、驚くことに貨物列車は約5%ほどしかありません。

これを聞いて「貨物列車の割合が少なすぎない?」と思った人もいるかもしれませんが、日本国内の物流の大半は、トラックと船で行われているのが現実です。

しかし、ずっとトラックや船が主流だったかというとそうではなく、1965年頃は鉄道の割合が30%を超えていました。

それだけ、鉄道貨物のシェアが高かった当時は、貨物線と呼ばれる貨物列車のための路線が全国各地にありました。

その一つとして、山手貨物線という山手線の横を走る貨物線などがあり、当時は日本国内に多くの貨物列車が走っていました。

また、横須賀線や京葉線の一部区間も貨物線だったほど鉄道による貨物輸送が盛んだったのですが、1965年ごろを境に状況が一変してしまいます。

シェア30%と順調だった貨物列車は次第にシェアを落としていき、今となっては5%まで下がってしまいました。

もちろん、貨物線の多くは役目を失い、旅客線に転用されていきました。

これも、貨物列車の利用率が少なくなったことが原因なのですが、どうして30%もあったシェアを5%まで落としてしまったのでしょうか?

ということで、今回は「貨物列車の利用率がたった5%しかない理由」について解説していきます。

貨物列車の利用率が低い理由1 輸送費が高いから

貨物列車の利用率が低い1つ目の理由は輸送費がトラックや船に比べて高いからです。

荷物を運びたい企業としては少しでも安い輸送方法を選びたいので、料金の高い貨物列車を選ばず、料金の安いトラックや船を選びます。

そのため、貨物列車の利用率が下がっています。

しかし、どうして、貨物列車の輸送費は高いのでしょうか。

「一度に大量の荷物を運べるから安いんじゃないの?」と思う人も多いと思いますが、実際は逆でかなり割高のようです。

もちろん、それぞれの契約内容や荷物の数量によっても変わってくるようですが、圧倒的にトラックや船の方が安いと言われています。

確かに、一度に大量の物が運べる上に、輸送中の乗務員は運転士一人だけなので人件費が安く済むのですが、線路の使用料というものがあるせいで、輸送費が高くなっています。

線路の使用料が何かというと、貨物列車を運転しているのはJR貨物という会社なのですが、JR貨物はJR各社の線路の上を走行して貨物列車を走らせています。

その、貨物列車を走らせるための通行料が線路の使用料です。

国鉄が民営化されJRになってからは、JR東日本や西日本、東海など、それぞれのJRの所有物になりました。

一部、JR貨物の所有線路もありますが、ほんの一部に過ぎません。

そのため、線路を使わせてもらうたびに使用料というものを払う必要があります。

この使用料というのがかなり高いようです。

貨物が走行する場合、旅客列車よりも重量があるので線路に負荷をかけてしまうため、JR各社は保守費用を回収するためにも使用料を高めに取っているようです。

しかし、その使用料が高額するぎるので貨物列車での輸送費は高くなってしまうようです。

貨物列車の利用率が低い理由2 高速道路が発達しすぎたから

貨物列車の利用率が低い2つ目の理由は高速道路が発達しすぎてトラックでの輸送が便利になったからです。

現在、日本の高速道路は都市部から地方まで各地につながっています。

そのため、どこに運ぶにしても高速道路が利用できるので、昔と比べると格段に輸送スピードが速くなっています。

高速道路がここまで発展する前は、貨物列車を使った方が圧倒的に速く、時間も正確というメリットがありました。

しかし、高速道路網が全国に整備されてからは、トラックを使った輸送でも速く、時間もかなり正確になりました。

輸送スピードも正確性もほぼ貨物列車と変わらないのに、料金が安いとなれば多くの企業がトラックを利用するのも納得です。

また、貨物列車の場合は、旅客列車とのダイヤ調整が必要で自由な時間に走らせることができませんが、トラックの場合は自由な時間に、自由な頻度で走らせることができます。

例えば、「工場での生産が少し遅れているから1時間出発を遅らせたい」という時も、貨物列車の場合、すでにダイヤが組まれているので、遅らせることは難しいですが、トラックの場合は簡単です。

高速道路網が発達してどこにでも高速道路で行けるようになったことに加えて、融通が利くという点でもトラックの方が優れているのかと考えられます。

貨物列車の利用率が低い理由3 島国なので船が使いやすいから

貨物列車の利用率が低い3つ目の理由は日本が島国で海に囲まれているからです。

海に囲まれているということは、どこに運ぶにも船を利用できます。

船を利用した運送というと、海外からの輸送が大半だと思っている人もいるかもしれませんが冒頭でも説明したように、国内輸送の4割近くは船が使われています。

船の場合、トラックや貨物列車よりも時間がかかるのですが、大量に物が運べるという利点があります。

さらに、運送費も安く済むので、急いでいない荷物は船で運ばれると言うケースも少なくありません。

急いでいる物はトラック、急いでいない物は船という感じに考えている企業が多いのだと思います。

貨物列車の利用率が低い理由4 国鉄時代に国鉄職員によるストライキが多発したから

貨物列車の利用率が低い4つ目の理由は国鉄時代に国鉄職員によるストライキが多発したことで荷物が長期間到着しなかったという出来事があったからです。

実際は国鉄職員によるストライキ行為は法律で禁止されていたので、仕事そのもののストライキは行うことができませんでした。

「じゃあ、どうやってストライキをしたの」と思う人も多いと思いますが、ストライキ権奪還ストライキと言うものを行い間接的にストライキしました。

簡単にいうと、仕事に対してストライキをしたのではなく、ストライキ権が無いことに対して奪還を要求するためにストライキをしたということです。

これが、合法なのか違法なのかは事例により解釈の余地があるということで、グレーな状態だったと言われています。

しかし、これらのストライキが多発したことで旅客列車はもちろん、貨物列車も長期間、運転されないということがありました。

すると、荷物の輸送をしていた企業は貨物列車そのものに対して不信感を募らせ、次第に利用しなくなっていきました。

今はJR貨物になったので、そのようなことはありませんが、それでもその時の経験から貨物列車は絶対に使わないという企業もあります。

国鉄時代は貨物も含めて国の事業ということで、競争意識が少なくサービスの質が良くなかったとも言われています。

そのため、貨物列車=質が悪いと言う評判が付いてしまっているのも貨物列車が使われない理由の一つだと思います。

貨物列車の利用率が低い理由5 結局トラックが必要だから

貨物列車の利用率が低い5つ目の理由は結局最終的にはトラックが必要だからです。

貨物で運べるのは貨物ターミナル駅までで、そこから倉庫や工場に運ぶためにはトラックが必要です。

だったら、初めからトラックで目的地まで運んだ方が二度手間にならず便利と考える企業も少なくありません。

「でも、船で運ぶのも二度手間じゃないの?」と思った人も多いと思いますが、船の場合は運送費が安い点、港の近くに倉庫や工場が密集しているという2つの理由から、二度手間になったとしても貨物列車よりもメリットがあります。

また、貨物列車よりも大量に物が運べる点、大きな荷物を運べる点も、船のメリットです。

とにかく、小回りの利くトラックが最強で、大量に運びたいなら船という選択肢があるというのが、現在の日本の物流です。

しかし、このまま貨物列車が使われないまま廃止されていくのかというと、そんなことはありません。

なんだったら、貨物列車が注目されようとしているとまで言われています。

モーダルシフトの流れが世界的に進んでいる

「モーダルシフトって何?」という人のために簡単に説明すると、

モーダルシフトとは、より環境負荷の低い輸送方法で物や人を運ぼうという取り組みです。

車よりも列車や船を利用した方が、何倍もCO2排出量が少なく、環境に優しい運送方法と言えます。

世界的に脱炭素が騒がれており、この流れに乗ることができれば貨物列車の利用率を上げることができるかもしれません。

また、日本ではトラックのドライバー不足が深刻な問題となっており、これを解決する方法の一つとして、一人で大量の荷物を運べる貨物列車が注目されています。

実際に貨物列車を利用する企業は増えており、少しずつではありますが、貨物列車の利用率は高くなってきています。

しかし、これで貨物列車の未来も安泰だとはなりません。

その理由は電気自動車と自動運転の普及です。

電気自動車と自動運転で貨物列車がなくなるかもしれない

電気自動車と自動運転が普及してくれば、先ほど言った「モーダルシフト」と「ドライバー不足」が解決されます。

しかも、自動運転が普及すれば事故も少なくなると考えられるので、より時間にも正確になり貨物列車を使う理由というのがなくなります。

まだまだ、電気自動車も自動運転も日本で普及するには時間がかかりそうですが、貨物列車が存続できるかはあと数年の生き残り戦略にかかっているのかと思います。

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