短編小説「ファーストアプリ」

僕は高校卒業後、まともに就職せずにファミレスでアルバイトをしながら生活していた。

親には、自分の本当にやりたいことを探すためにフリーターになると言ったが本当は、就職難で就職先が見つからず現実から逃げていただけだった。

今の唯一の楽しみといえば、趣味のスマホゲーム作りで毎日少しずつ素材やプログラムを書いていた。

しかし、このまま一人で作っていたらあと、5年以上は確実にかかる。

別に収益が目的ではないので、一人で地道に進めるのもいいが、世の中の変化が激しくなったこの時代に5年後、スマートフォンが存在する保証もない。

そこで、僕は、一緒にアプリ作りを手伝ってくれそうな仲間を探した。

中学時代の友達の多くは大学に進学しており、高校時代の友達は就職が殆どで僕のゲーム作りを手伝ってくれる人に心当たりがなかった。

時間が余るほどあってゲームに興味がある人といえば思いつくのは今のバイト先のメンバーだけだった。

友達といえるほど仲は良くなく、仕事以外では殆ど話したことがないがフリーターである事とゲームが大好きであるということは知っていた。

「あの・・・ 話が・・・」

「どうしたの?」シフトが同じメンバーの中で一番先輩である斎藤が心配そうに言った。

「少し相談がありまして・・・ 仕事終わりに少しお時間いただけますか?」

「いいよ。 なんか、深刻そうだね。 じゃあ、俺の方が早く上がるから目の前の喫茶店で待っているよ」

「すみません。 仕事終わったらすぐに行くのでよろしくお願いします」

会話が終わると、二人は仕事に戻った。

僕が仕事を終えて、目の前の喫茶店に行くと斎藤が待っていた。

「おまたせして申し訳ございません」

「大丈夫。 どうせ暇だし。 なに飲む?」

「じゃあ、アイスコーヒーで」

そういうと、斎藤はウエイターを呼びアイスコーヒーを注文してくれた。

「っで、相談ってなに?」

「実は、スマホゲームを僕一人で作っているのですが、もしよかったら手伝ってくれませんか」

「スマホゲーム? どんなの?」

「よくあるパズルゲームをクリアしていってダンジョンを進めるという形のゲームです。  実際にパズルの部分は完成しているので一度プレイしてみてください」僕はそう言って自分のスマホを斎藤に渡した。

斎藤は、無言のまま10分程度ゲームを続けた。

「おもしろいよ。 これを山田一人で? 今までのパズルゲームとは少し違ってよく考えられていると思う。 後は細かいデザインとバグを修正すれば十分ゲームとして成り立つと思うよ」

「ありがとうございます。 それで、手伝ってくれますか?」

「学生時代にプログラムを勉強してきたからこれくらいのゲームだったら役に立てそうだから手伝ってあげるよ」

「ありがとうございます」

「ただ、プログラマは俺と山田で十分だとして、デザイナーが必要だな」

「そうですね。 誰か知り合いとかいないですか?」

「確かバイトの宮本がデザイン学校を卒業していたな」

「あの宮本さんですか?」

「そう。 学生時代は将来が期待されていたデザイナーだったらしいけど、一つのミスで自信を無くしてデザインの道を諦めたんだって」

「そんな過去があったんですね」

「あと、山下と近藤もデザイン学校行ってるぐらいだし、できるでしょ」

「そうですね。 誘ってみます」

「じゃあ、俺は宮本誘うから、山田は山下と近藤に電話してみてよ」

そういうと、二人はそれぞれ電話をかけて喫茶店へ呼び出した。

最初に来たのは宮本だった。

「斎藤、話ってなんだよ」

「まぁ座れよ」

宮本は山田の横に座った。

「実は、山田と俺でスマホゲームを作ろうって話になったんだけど、デザイナーがいなくて」

「なに? 俺にデザインを?」

「さすが、飲み込みが早いね」

「やだよ。 もう、デザインはやりたいとも思わないし」

「そんなこと言うなよ。 別に仕事じゃないんだからクライアントもいないし自分の好きなようにしていいからさ」

「自分の好きなようにね・・・ 本当に俺のデザインに文句言わないか?」

「言わないよ。 手伝ってくれるってことか?」

「どうせ暇だしな」

「ありがとう。 宮本ならやってくれると思ったよ」

「ありがとうございます。 少ないですが完成した時には謝礼はお支払いするので、よろしくお願いします」

「別に謝礼なんかいらないよ」

「いや、本当に少ないので、あんまり期待しないでくださいね」

そうしていると、山下と近藤も喫茶店にやって来た。

二人とも学校とバイトで忙しいながらも、できるだけ協力してくれると言ってくれた。

これでメンバーも揃い、本格的なスマホゲーム作りが始まった。

早速、宮本はパズル部分のデザインに取り掛かった。

山下と近藤もそれぞれ、キャラクターデザインを自分のペースで進めてもらう事にした。

僕と斎藤はひたすらプログラムについて話し合った。

「まずは、パズルのバグ部分を直していきたいのですが斎藤さんできますか?」

「現状で分かっているバグの数は?」

「今のところ、7ヶ所です。 1つ目がゲームには直接関係ありませんが画面の右端をタップするとゲームが強制終了されます。 2つ目は360秒で一瞬だけ画面が真っ暗になります。 大きなバグとしてはこの2点です」

「後の5点は?」

「細かい部分ですので後回しにしても大丈夫です」

「わかった。 とりあえず原因を突き止めてみるよ」そう言うと斎藤はパソコンに向かってバグの原因を探し始めた。

僕は、ゲームの基礎となるシナリオ部分のプログラムをひたすら書き続けた。

1週間後、それぞれの現状報告の為に喫茶店に集まった。

「まずは、パズル部分のバグなんだけで、山田の言う大きなバグの二つは原因が突き止められ、解決できた」

「さすがですね」

「他の5つについても、完璧ではないがゲームの進行に全く影響の出ない程度になっている」

「わかりました。 とりあえずパズル部分のプログラムは一旦完成ということにして、基礎部分を手伝ってください」

「わかった。 それで基礎部分はどこまで進んでるんだ」

「とりあえず、シナリオ部分やキャラクターの合成部分、課金システム、ゲームオプション、ガチャシステムなどの基礎は出来ています。 なので、あとはバグ探しと細かい修正が必要です」

「じゃあ、俺は徹底的にバグを探すから、細かい修正は任せるわ」

「わかりました。 じゃあ、次にデザイン部分はどのような状況か教えてください」

「パズルのデザインは完成してから、後でデータを送る。 他にはダンジョンの背景やガチャもデザインしてあるから、そっちで組み合わせてくれ」

「さすが、仕事早いな」

「まぁな。 久しぶりのデザインだったからな。 キャラクターの方はどうなってるんだ」

「キャラクターは僕も山下も5体ずつ完成させています。 二人で話し合いながら書いたので、デザイン性の統一は出来ています。 ただ、宮本さんとは話し合えていないので、宮本さんのデザインを見せて欲しいのですが」

「そうだな。 あとで送っておくよ」

思った以上に全員の仕事が早く、当初は1年以上かかると予想していたが少し早まりそうな予感がした。

そして、それぞれの課題ややるべき事を明確になったところで、再び作業に没頭した。

何度か話し合いを交えたのち、僕達がゲーム作りを始めてから6ヶ月でゲームとして形になった。

ただ、キャラクター数150体を目標にしていたが、近藤と山下は学生でもあり、アルバイトもあったので、全然間に合っていなかった。

僕は、仕方なく外注を使うことにした。

100体までは頑張って作ってくれていたので、残りの50体を70万円で発注した。

バイトで貯めていたと言ってもさすがに70万円は大きく、バカな事をしたと後悔もあった。

しかし、ここまで皆を巻き込んだからには一刻も早く、収益化を目指さなければならない。

そして、ゲーム作りを始めて、8ヶ月で最終のテスト段階まで来た。

大手スマホゲーム会社でも企画から完成まで半年以上かかる中、メンバーがたった5人でここまでのクオリティーのゲームを作り上げたことは奇跡に近い。

最終テストは、安全性と公平性を求め、お金が更にかかるが、外部機関に依頼した。

そうすると、驚きの結果が来た。

テスト結果:欠陥部分12件 内重大欠陥1件

そう、重大欠陥が残っていたのだ。

11件の細かい欠陥はすぐに対応できたが1件の重大欠陥はすぐに対応できなかった。

理由はセキュリティーに関するバグの為、とりあえずリリースという処置もできないからである。

僕たちの作った「おかしdeパズル」は初期のキャラクターで激レアが出なかった場合に行われるリセットマラソンを禁止している。

具体的に顔認証システムを利用して一度使用した顔データはリセットができない仕組みである。

しかし、そうして得た顔データが簡単に外部から閲覧できるバグが残っていた。

バグの原因は顔データの照合の際に委託している外部システムに送信するプログラムの暗号化が不十分な状態であるとすぐにわかった。

斎藤はすぐに送信データの暗号化を強化したが、そうすると顔認証機能がうまく働かずリセットマラソンが可能な状態になってしまう。

僕に与えられた選択肢は2つだ。

1つ目は、リセットマラソンを許可して顔認証機能を無効化する。

2つ目は、顔認証を外部に委託せず独自システムを開発するか外部からシステムそのものを購入する。

簡単なのは1つ目である事は誰にでもわかるがどうしてもリセットマラソンを無くしたいという思いから僕は顔認証システムを外部から丸ごと購入して自分のサーバーで運用することにした。

しかし、顔認証システムの購入は1000万円と巨額で僕は投資してくれる人を探した。

今まで出会った人はもちろん、あらゆるお金持ちに話を持ちかけたが相手にしてくれる人はいなかった。

「顔認証は諦めてとりあえずリリースを優先させて利益を得ないと」斎藤は焦り気味に言った。

それもそのはず、制作費は自分たちで行なっているので無料だが、外注費・テスト費は山田の貯金と借金から、サーバーのレンタルやその他のソフト代はメンバー全員の負担となっていた。

「いや・・・でも・・・」

「でもじゃない、このゲームは必ず当たる。 だから、リリースした後に追加機能として顔認証を付ければいいじゃないか」

「それだったら遅いですよ。 セキュリティーや利便性が向上するアップデートであればユーザーも納得しますがユーザーにとって制限となるシステムのアップデートは初めから搭載しておかないとユーザーが逃げてしまいます」

「じゃあ、どうやって資金を集めるんだ」

「作ります。 一から顔認証システムを構築します。 そうすると開発費も最低限で済みます」

「お前はバカか、作るといっても今はお金がない。 1日でも早く利益を得て借金を減らさなければならない」

「わかりました、皆さんに立て替えていただいているソフト代やサーバー代は、全て僕が借金をして一旦返します。」

「そこまでして顔認証をつけたいのか?」

「はい、どうしても付けたいです」

「わかった、立て替えている分やサーバー代は気にしなくていいからお前が思うようにやれ」

「ありがとうございます。 早速ですが顔認証の仕組みを作っていきます」

「俺は何をすればいい?」

「そうですね、僕が顔の判断システムを作るので斎藤さんはデータのやり取りや管理の仕組みを作ってください。 宮本さんと山下と近藤は顔認証の判断に必要なデータを集めといてください。」

「わかりました」

そういうと、それぞれ作業に取り掛かった。

顔認証の仕組みは、様々な企業が既に開発しているだけあって、サンプルとなるプログラムがあったので思った以上に簡単に作ることができた。

また、スマホに特化した顔認証ということで認証率も高いものが完成した。

最終テストも無事にクリアして後は、配信するだけとなった。

「配信日はいつにしますか」

「そうだな、明日にでも配信をしようか」

「そうですね、早く収益を上げないといけませんからね」

配信が開始されると思った以上にダウンロード数が伸び、あっという間に20万ダウンロードを記録した。

また、個人で作成した中ではクオリティーが高くメディアにも取り上げられ瞬く間に70万ダウンロードを記録し課金売り上げも3000万円を越し、借金もすべて返すことができた。

また、メンバーにも給料を支払えるようにもなった。

これを機にメンバー全員がバイトを辞めゲーム作りに専念した。

リリースから10日が過ぎた頃、ユーザーからバグの報告が入った。

その報告とは「日付の変わった瞬間にゲームを起動すると必ずフリーズする」という内容だった。

おかしdeパズルは日付ごとにイベントを実施しており誰よりも早くイベントを実行したいという人は日付の変わった瞬間にゲームを起動することが多い。

だた、重大バグには含まれず外部機関のテストでも全く発見されることがなかったバグである。

こうしたバグは大概すぐに治せるバグで今回も例外ではく、プログラムの一部を変更するだけでバグが修正された。

SNSでも話題となりリリースから1ヶ月で100万ダウンロードを突破した。

こうなると、大手企業からの買収問題が発生するのだが何処の企業からの買収の声がかからなかった。

もちろん、僕も買収の声がかかっても売るつもりは全くない。

おかしdeパズルは順調にアップデート重ねダウンロード数も売り上げも好調に上がっていた。

これを資金に新しいゲームを作ろうと思うのですが斎藤さんはどう思いますか」

「急だけど・・・俺、辞めさせてもらうわ」

「何言っているのですか?」

「実は大手ゲーム会社のケリーから社員にならないかと誘われて・・・」

「えっ」

そう、大手企業からの買収の話はなかったが代わりに引き抜きの話が持ち上がっていたようだ。

確かに斎藤はプログラマとしても優秀で、発想力も高いため大手企業が欲しがることも理解できる。

同時に僕にとっても斎藤は重要な人物であるため辞められては困る。

「もう、契約も結んで来月の入社も決まっている。 山田には申し訳ないがこのチャンスを逃すとまた、フリーター人生が待っているかもしれない」

「斎藤さんが大手で働きたいという気持ちもわかります。 でも、僕の気持ちも考えてくださいよ」

「山田なら大丈夫だ。 それに、おかしdeパズルも順調に運用ができている」

確かに運用も順調でアップデートも一人で十分だ。

僕は斎藤の人生を考えこのメンバーから斎藤を外すことにした。

「もし、ケリーに行って大失敗しても僕は知りませんよ」

「わかっている。 ここに戻ってくるつもりも、戻れるとも思っていない」

そういうと斎藤は部屋を後にした。

「4人になってしまったけどどうします。 この機会に辞めたいと思う奴は、辞めてもいいけど・・・」

「僕たちは山田さんに付いていきますよ」山下が言った。

「宮本さんは?」

「もちろん、ついていくよ。 山田がデザインのチャンスを与えてくれたからね」

「ありがとうございます。 近藤はどうする?」

「僕もついていきますよ。 学校と両立なので専念はできませんが」

「ありがとう。 もちろん学校を優先してくれて構わないし、そこでもっとデザインを勉強して欲しいと本気で思っている、山下もね。 じゃあ次のゲームを作るか」

「でも、メンバーが足りないでしょ」

「そう、メンバーが足りないからメンバーを増やそうと思ってるんですが、そのために会社としてしっかり運営をしていこうと思うのですが、それでいいですか?」

「法人化か、いろいろ手続きが難しそうなだ」

「それは大丈夫です。 すべて司法書士に任せるつもりなので」

そうして、すべて司法書士に任せて法人として運営していく手続きが完了した。

税理士や公認会計士も雇い会社としての運用は全て任せ、僕たちはゲーム作りに専念することにした。

僕は会社の社長になり残りの3人もそれぞれ取締役に就任した。

また、会社名もファーストアプリと名付けた。

「会社になったわけだから、新しいゲームをそろそろ作りましょうか」

「メンバーはどうする?」

「そうですね、プログラマ10人とデザイナー15人を雇うと言うことでいいですか?」

「そんなにいるか? まぁスピード感があったほうがいいから、それで行くか」

僕は山下に求人広告会社に広告掲載の依頼を申し込みようにお願いした。

1作品目の爆発的なヒットのおかげですぐに応募者が80人を超えた。

僕は、ゲーム開発に専念して採用活動は山下と近藤に全てを任せた。

「宮本さん、次はどんなゲームを作りますか?」

「そうだな、1作品目がパズルゲームだったから違う路線がいいな」

「そうですね、リズムゲームでダンジョンを進んでいくゲームとかどうですか?」

「リズムゲーム・・・面白そうだな」

「ただ、リズムゲームは既存のタイトルが多すぎる点とサウンドに関する著作権をクリアしなければならないんですよね」

「ライバルが多くて大変そうだけど、やりがいがある作品になりそうだな」」

「そうですね」

早速、僕と宮本はそれぞれプログラムとデザインに分かれて作業を始めた。

作業開始から2週間が経った頃で新入社員25名が入社した。

そこから、ゲーム作りは加速し4ヶ月でゲームの基本体系は完成した。

あとは、音楽を差し込めば完成だ。

この時点で第1作目のおかしdeパズルは300万ダウンロードを突破しており驚異的な大ヒットゲームへと成長していた。

このこともあり、音楽の著作権も信用と金銭力により簡単に使用許可を得ることができた。

あとは、最終テストの結果を待つのみである。

テスト結果:テスト結果:欠陥部分5件 内重大欠陥0件

細かい欠陥部分は存在したが大きな欠陥は見つからなかった。

欠陥部分はリリース後に修正しても良いほど細かいバグで僕はすぐに配信するように部下に命じた。

配信が開始され1作品目を越す40万ダウンロードを一瞬で記録した。

僕は正直、安心していた。

しかし、配信から1ヶ月が経っても60万ダウンロードと伸び悩む結果となっていた。

それに対して、おかしdeパズルは配信から6ヶ月が経った時点で700万ダウンロードを記録しメディアでも大きく取り上げられ、売り上げも順調に伸ばしていた。

僕は、新作ゲームの「音色パーティー」がどうしてダウンロードされないか原因を探った。

制作費は圧倒的に前作よりも高く、ゲーム制作の経験者も大勢参加している。

その状況で考えられる原因は1つだ。

斎藤がこのゲームの作成に関わっていないということだ。

前作では、細かい部分のプログラムまで斎藤が作り込んでいた。

だから、使いやすいユーザーインターフェースが完成され結果としてダウンロード数が伸びたとしか考えられない。

その証拠に斎藤がケリーに入社してからリリースされたゲームは大ヒットを記録している。

また、人気のなかった作品でも斎藤が加わり修正したことによりダウンロード数が急激に伸びた。

やはり、斎藤の細かい所までこだわるゲーム作りが大ヒットに貢献している事は紛れもない事実である。

1作目が配信から7ヶ月で1000万ダウンロードを記録した。

それに比べ音色パーティーは2ヶ月で80万ダウンロードにとどまっている。

会社としての利益はおかしdeパズルが好調なため確保できているが音色パーティーだけでは損失を記録している。

理由は明確で、膨大な開発費の割にダウンロード数、課金率ともに伸び悩んでいるからだ。

対策として様々なイベントを実施、おかしdeパズル内で宣伝を行うもののダウンロード数には反映されなかった。

反対に、おかしdeパズルに関しては急激なダウンロードに対してサーバーが対応できなくなり一時的にイベントを中止せざる得ない状況まで来ていた。

また、どちらのゲームにも搭載している顔認証機能によるリセットマラソン禁止対策は不評でそれも、ダウンロード数の伸び悩みに影響していると考えられる。

それでも、ダウンロード数を伸ばすおかしdeパズルは本当にすごいゲームであると改めて実感した。

しかし、僕は顔認証システムを廃止する考えは一切なかった。

僕としては音色パーティーをもっと成長させていきたいのは山々だが会社としては利益を出さなければならない為、音色パーティーを斎藤のいるケリーに売却することにした。

売却価格は僕の予想を超える15億円と高額であった。

開発費が4000万円のゲームに正直、15億円という値がついたのは斎藤の力だと誰でも予想がつく。

おかしdeパズルは配信から8ヶ月でダウンロード数1200万ダウンロード、課金売り上げは40億円を記録していた。

計算するとユーザーの3割以上が1000円以上課金している事になる。

この課金率は非常に高く、今後も伸びると思われる。

ケリーに売却した音色パーティーは売却してから1ヶ月で300万ダウンロードを記録していた。

理由は、大手の力と斎藤の力であることは間違いない。

僕には斎藤が必要であると考えケリーの買収を考えた。

しかし、ケリーの時価総額5000億円ととてつもない金額だ。

現在、ファーストアプリは上場企業でないため正確時価総額は算出していないが評価額としてゲームが130億円と貯金が25億円の合計155億円だ。

従って大手ゲーム会社を買収することは不可能に近い。

しかし、0ではない。

方法としては1つだ。

おかしdeパズルは今後、売り上げをさらに伸ばすと予想し、会社ごと買収したいと考えている企業は多かった。

その中でも、大手通信会社のTTNはあの斎藤のいる大手ゲーム会社のケリーの親会社である。

そこに買収されるということは、事実上、斎藤ともう一度仕事が出来ると言う事だ。

しかし、買収されれば、間違いなくケリーとファーストアプリは統一化されケリーが主体となるに間違いない。

そして、僕は解任される可能性も高い。

例え、解任は免れたとしても、自由に仕事が出来るとは到底考えられない。

それだったら、斎藤だけを戻す方法を考える方が現実的である。

ただ、問題はやはり、斎藤を説得するだけの材料がないと言う事だ。

明らかに給料も待遇もケリーの方が良い。

また、リスクを考えても、安定期になるまでは大手に居座ったほうが良いに決まっている。

そこで、僕が考えたのは、斎藤が戻ってきてくれる会社を作る事だった。

まず、安定した利益を上げられる事業を作る事だ。

ゲームは一過性が高く、決して安定とは言えない。

そこで、僕は、メディアを作ることにした。

メディアと言っても発信する側ではなく、プラットフォームの構築・マーケティングだ。

ニュースであれば、Yahoo!ニュース。

動画であればYouTubeやニコニコ動画。

まとめ記事であれば、ネイバーまとめ。

このように、代表となるプラットフォームを作る必要があると考えた。

ただ、総合的なメディアでは絶対に勝てないことは明確で、専門的なメディアを作る必要があった。

時代は、アイドル全盛期で地下アイドルなど日の目を見ないアイドルが眠っている。

そこに注目した僕は、地下アイドル専用の配信プラットフォームを作ることにした。

配信できる種類は、動画・生動画・ブログ・漫画・小説などありとあらゆるものだ。

ただ、配信者はアイドル本人または、関係者に限定されるので、良質なコンテンツが集まる。

また、アイドル自身も宣伝の場が欲しいため、コンテンツを無償で提供してくれる。

出来るだけ、初期投資を抑えたい僕にとっては、もってこいのビジネスモデルだった。

僕は早速、サイトの構築に入った。

まず、大前提として投稿しやすい環境を作る事が一番大切だ。

アイドル自身が投稿するのであれば、パソコン・スマホ・タブレットなどすべての端末から投稿できる必要がある。

また、スマホに関してはブラウザーで作るよりもアプリの方が更新頻度が高くなることは明確である。

ユーザー側の方も、ブラウザー・アプリの両方に対応するとともに、ライブ映像はテレビで見たい方も多いはずなので、スマートテレビでも見られる仕組みを整えた。

あとは、投稿してもらうアイドルを探すだけとなった。

ここで思わぬ苦戦があった。

誰と交渉すればいいのかも、アイドルがどこにいるのかも、全くわからない状況だった。

とりあえず、芸能関係の友達に地下アイドルや売れっ子アイドルについての仕組みや事務所を聞いた。

地下アイドルに関しての仕組みは簡単であったが、売れっ子に関しては、事務所が複数あったり、同じ事務所でもレーベルが違ったり、素人に理解が出来なかった。

また、JACCSへの許可番号申請も行う必要があるようで、想像以上に大変だった。

ただ、斉藤を取り戻す為には、やるしかないと思い、ややこしい法手続きやJASRACへの手続きは司法書士に任せ、アイドルと交渉に専念することにした。

まずは、地下アイドルのライブを見に行くことにした。

一人で見に行くのも恥ずかしさがあったので、宮本に同行してもらった。

「すごい熱気ですね」

「そうだな」

「宮本さんとか、アイドル好きそうなのに見ないんですか?」

「よく言われるけど、全く興味ないね」

「そうなんですね」

僕と宮本は純粋にライブを楽しんだ。

ライブ終わりに、舞台横で見守る、スーツの男性に声をかけ、少しだけ話を聞いてもらうことになった。

「実は、アイドルがなんでも発信できるサービスを考案していまして、ぜひ協力いただけないかと思い、お声がけさせて頂けていただきました」

「なんでもって?」

「動画とか生動画、イラストや手紙、ブログなどなどアイドルからファンに向けての発信の場を作ろうと考えています」

「なるほどね。 それで登録するのに金をよこせと?」

「いえ、そのサービスの中にはネットショッピングの機能や有料コンテンツの機能もありまして、そうして得た利益の10%〜20%を頂こうと考えています」

「もし、動画やブログだけを使って、ネットショッピングや有料コンテンツの機能を使わなかったらどうなるの」

「その場合は、アイドルもユーザーも全て無料で使えることになります。 ただファンが集まる場所なので必ずグッズ販売や有料コンテンツを差し込むことで、アイドルにとっても大きな利益に繋がると自負しています。 また、他のアイドルのファンも集まるプラットフォームなので新たなファン獲得のツールとしても使っていただけるはずです」

「なるほどね。 それでいつリリースするの?」

「現在、開発を進めておりまして、3ヶ月程度でリリース予定です。 できれば、それまでにある程度コンテンツを作って、リリース日には充実したコンテンツがある状態を作りたいと考えています」

「わかった。 考えておくよ」

「お願いします」

名刺だけ交換をして、検討という流れになった。

他にも何百という地下アイドルに交渉に行ったが、どれも検討の状況だった。

やはり、有名グループが参加しないことには、怪しいサービスとして終わるだけだと思い、なんとかコネを探した。

探してみると、意外とすぐに見つかった。

そう、斉藤が有名アイドルとのコラボゲームのプロディーサーをやっていたのだ。

斉藤を戻す為に、会社を大きくしようとしているのに、斉藤にお願いをして、アイドル事務所を紹介してもらうのは、少し違うと思ったが、仕方ない状況だった。

大手事務所の社長にアポイントを取ってもらい、僕と宮本で六本木のオフェスに向かった。

「本日はお忙しいなか、お時間を頂戴してありがとうございます」

「いや、別にいいんだよ。 大体の話は斉藤くんから聞いているから」

「では、さっそく本題に移らせていただきます。 斉藤さんから聞いていると思いますが、アイドル専門の発信プラトーフォムを計画しています」

「発信って具体的には?」

「基本的になんでもです。 動画や生動画、ブログ、漫画、イラスト、写真、レターなど、どんなものでも発信できる場を用意します」

「なるほど、オタクたちを一箇所に集めるということですね」

「そうですね、アイドルファンというのは一つのグループだけを応援するパターンと複数を掛け持ちするパターンの2種類がいます。 その後者をターゲットに様々なアイドルグループを楽しんでもらえればと考えています」

「具体的な収益モデルは、どのようにお考えで」

「サービス内にネットショップと有料コンテンツを配信できる機能を備えて、そこで得た利益の20%程度をいただこうと考えています」

「それ以外は?」

「とくに、それ以外での収益は考えていません。 広告もなしですし、アイドルがネットショップや有料コンテンツをしたくないのであれば、それも仕方のないことです」

「最悪、売り上げがゼロということも考えられるのでは?」

「もちろん、最悪のケースを考えるとそうなりますが、地下アイドルはもちろん、有名アイドルにとってもグッズ販売の売り上げに間違いなく貢献します。 それを使わない事務所などないというのが我々の考えです」

「確かに、アイドルファンが集まる場所でグッズを売れば売れるかもしれない。 しかし、ライブなどで売れるグッズをわざわざ手数料のとられる、御社のプラットフォームで売るとは考えられないのだが、その点はどうかね」

「もちろん、その点も考えていないわけではありません。 しかし、このプラットフォームを使えば拠点から離れたファンも獲得できることになります。 そうした方にはネットでグッズを販売する他なく、独自のネットショップで販売するのも一つの手ですが、当社プラットフォームで売ったほうが間違いなく、売り上げが高くなります」

「その根拠が乏しいな」

「確かに確信できるほどの材料があるわけではありませんが、ポイント付帯などにより独自性を出せば十分に可能性はあると思います」

「まぁ、いいだろう。 それで私に何を協力しろと?」

「単刀直入に御社のアイドルに当社のプラットフォームで活動をしてほしいです」

「この手の話はよくあるが、なかなかアイドルの労働時間が長くなることは望まれないので断っている」

「そこをなんとか、別に毎日更新が必要なわけでもありませんし、アイドルが更新できないときはスタッフが代わりにということも可能かと思います」

「そのスタッフの人件費はだれが負担するのかね。 地下アイドルにとっては売名のいい宣伝プラットフォームになると思うが、当社のような既に別のプロモーションで成功しているようなグループには向いていないと思う」

「では、これから売り出すアイドルだけでも使ってもらえませんか?」

「だから、労働時間問題が解決できない限り、当社所属のアイドルは参加できない」

「わかりました。 それでは今回は残念ですが、諦めます。 お時間を取らせて申し訳ございませんでした」

「まぁ、頑張りたまえ」

僕と宮本は部屋を後にした。

「どうすしますか」

「どうするよ」

「もう、僕たちでアイドル作っちゃいます?」

「そんな事できるのかよ?」

「あまり、お金を使いたくはないですが、幸いなことに売り上げは安定しており、貯蓄も相当あるので、できなくはないです」

「じゃあ、やってみるか」

僕たちは、自分でアイドルを作ることにした。

それと同時並行で既存のアイドルへの営業活動も続けた。

苦労の結果もあり、なんとか地下アイドルが10グループほど参加してもらえることになった。

ただ、見切り発車でスタートしても、間違いなく失敗することが明確だったので、オーディションが始まるまでは、リリースしないことにした。

そんな時だった。

急に聞きなれないサイレンがパソコンから響いた。

そこには「清水高貴との一致率98%」と書かれていた。

「山田さん、これは何ですか」山下が問いかけた。

「あぁ、これで僕の任務が完了した」

「任務?」

「そうだ、もう僕は、ファーストアプリの代表を辞める」

「代表を辞めるって会社を潰すということですか」

「いや、宮本さんに僕の持っている株をすべて譲渡して退職金として10億を受け取り退社する。 だから宮本さん、後は任せました」

「任せたってそんな、無責任な」

「何を言われても僕の決定は変わりませんよ」

そういうと、10億の小切手を持って僕は会社を後にした。

僕はその足で、清水高貴という人物がアクセスした場所に向かった。

そこは、どうやら東京石塚病院という場所からのようだ。

僕と清水は、小学校卒業までとても仲が良かった。

中学校ももちろん、同じ学校に通う予定でいたが何故か入学式には現れなかった。

体調を壊して入学式から休みなのかと思っていたのだが清水は卒業式まで1回も学校に現れることはなかった。

家にも様子を見に行ったことあったがどうやら引越しをした後のように何もない状況だった。

噂では家族で交通事故にあったと聞いたがそれだったら同じ町に住んでいるのだから僕が知らないとなるとおかしい。

だから、どうにかして清水を探す為、表向きはゲームだと思わせ密かに顔データを集めていた。

本当ならもっと早く探してあげたかったがパートナーとなる優秀なプログラマやデザイナーが中々、見つからず21歳になるまで行動に移せなかった。

病院に着くとすぐに入院棟に向かい清水を探した。

ナースステーションで聞くと清水は、1508室にいるという。

走って向かうとそこには清水高貴と書かれた札があった。

中に入ると眠ったままの清水とお母さんがいた。

「誰・・・? 確か山田くんだよね」

「はい、そうです。 それより高貴どうしたんですか」

「高貴は中学校の入学式の前日に急に意識をなくして今日までずっと・・・」

「そうだったんですか。 でも、どうしてそのことを伝えて・・・」

「伝えようと思ったんだけど、心配させてはいけないと思ってね・・・」

「それで、高貴はどんな病気何ですか?」

「高貴の病気は突発性脳幹障害と言って原因は未だにわからなくて、治療法もまだ確立されていないらしいのよ」

「治療法がないって・・・」

「でもね、脳幹になんらかの障害が発生して運動機能が停止しているだけであって障害さえ取り除けば運動機能が再起動するかもしれないらしいのよ。 だから、私たち家族はその時をずっと待ち続けているの」

よく考えてみると眠ったままの清水がゲームの登録をできるわけがない。

「でも、どうしてここがわかったの」

「実は、おかしdeパズルというゲームの運営者でそのゲームはプレイ開始前に顔写真を必要としているんです。 そこで高貴の顔写真が登録されたと通知が来て・・・」

「あぁ、それは私がもし高貴が普通に生活していたらこんなゲームをやっているのかなと思って高貴の顔で登録したのよ」

「そうだったんですか」

「まさか、高貴を探すためだけにそのゲームを開発したの?」

「まぁ・・・」

「そんなに高貴のことを・・・」

高貴の母は、その場で泣き崩れた。

「僕にも何かできませんか」

「気持ちだけでもありがたいわ。 でも、私たちも同じだけど待つことしかできないのよ」

「そうですか」

「じゃあ、私はそろそろ買い物に行かないといけないから」

「はい、わかりました、では、僕もこの辺で失礼します」

そういうと小切手の10億を母に渡して走り去った。

それから1ヶ月した時、もう一度病院を訪れたがそこに清水高貴の姿はなかった。

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